2026年に向けて、世界の旅行トレンドが大きく変化しています。
コロナ禍を経て、旅の目的は「遠くへ行く」から「心を整える」へと移り、喧騒よりも静けさ、華やかさよりも癒しを求める人が増えています。
その新しい潮流のなかで、アジアの南に位置する島国・スリランカが再び注目を集めはじめました。
かつて「インド洋の真珠」と呼ばれたこの国は、自然、文化、歴史、そして人の優しさが調和した国。
2026年にかけてスリランカ旅行がブームになると予想される理由を、いくつかの視点から見ていきます。
観光再生が進むスリランカ
スリランカ政府は2024年以降、観光を国家成長の柱と位置づけ、空港や道路などのインフラ整備を急速に進めています。
特に首都コロンボから南部ガレを結ぶ高速道路の延伸や、内陸のキャンディ、高原地帯のヌワラエリヤ方面への鉄道改善は、旅行者の利便性を大きく向上させました。
2025年には日本からの直行便再開も検討され、アジア諸国との観光連携が広がっています。
宿泊施設の選択肢も多様化しました。高級リゾートから自然派のブティックホテル、紅茶畑に囲まれたロッジまで、旅の目的に合わせた滞在が可能です。
特にアーユルヴェーダを取り入れたウェルネスリゾートは欧米を中心に人気が高く、医師資格を持つセラピストによる治療や瞑想プログラムなど、心身のバランスを整える滞在が支持を集めています。
スリランカ政府観光局は2026年までに外国人観光客250万人の回復を目標に掲げ、質の高い観光サービスの整備を進めています。
文化の深さと人々の温かさ
スリランカの魅力は、単に自然の美しさだけではありません。
この国は長い歴史のなかで、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教といった多様な文化が共存してきました。
それぞれの信仰が互いを尊重し合い、街や人の生活のなかに息づいています。
キャンディで行われるエサラ・ペラヘラ祭や、アヌラーダプラの仏教遺跡群などは、古代から続く祈りの文化を体感できる貴重な場所です。
人々の穏やかで温かな性格も、旅人を惹きつける理由のひとつです。
スリランカでは、知らない人同士でも笑顔で挨拶を交わすのが自然な文化。
観光産業は国の再生に直結する大切な分野であり、旅行者を心から歓迎する空気が国全体に広がっています。
2023年の経済危機を乗り越えたあとの今、現地には「もう一度立ち上がろう」という前向きなエネルギーが感じられます。
観光客の増加はその象徴でもあり、旅行者はその変化の現場を肌で感じることができるでしょう。
世界が求める“心の旅”
2026年にスリランカが注目される背景には、世界的なウェルネス志向の高まりがあります。
ストレス社会のなかで、旅行者は単なる観光よりも、心や体を癒す体験を求めるようになりました。
アーユルヴェーダの本場であるスリランカでは、医療・伝統・自然が融合した「メディカル・ウェルネスツーリズム」が急速に成長しています。
滞在中に受けられるアーユルヴェーダ治療や瞑想プログラム、オーガニック食事療法などは、健康と癒しをテーマにした旅を求める人々にとって理想的な環境といえます。
また、近年の観光トレンドとして「サステナブルツーリズム」が注目されています。
スリランカでは世界遺産の保全活動や自然保護プロジェクトが進められ、観光客自身が地域の環境を守る取り組みに参加できるプログラムもあります。
紅茶農園の見学や自然保護区でのボランティアなど、旅行者が“消費者”ではなく“共創者”として関われることも、この国ならではの魅力です。
都市部では通信環境や交通の混雑などの課題も残っていますが、観光地としての規模が過度に大きくない分、静かに過ごせるという利点もあります。
観光地化の進みすぎた地域に疲れた人々にとって、スリランカは「適度に手つかずの癒し」を感じられる国といえるでしょう。
アジアの旅ブームは次の段階へ
かつてのアジア旅行は、物価の安さやエキゾチックさを楽しむものでした。
しかし2026年の旅ブームでは、旅の目的そのものが変わりつつあります。
スリランカが注目されているのは、安さでも派手さでもなく、「意味のある時間を過ごせる場所」であるからです。
最近では、欧米だけでなく日本や韓国、台湾からの旅行者が増えています。
SNSでは紅茶列車の写真や海辺のホテルの映像が人気を集め、若い世代にもスリランカの魅力が広がっています。
旅行会社各社もアーユルヴェーダ体験ツアーやリトリート滞在など、テーマ性のある商品を相次いで発表しています。
また、リモートワークやワーケーション需要にも対応し、長期滞在者向けのビザ制度の改善も検討されています。
地政学的な安定も大きな追い風です。
政治的に比較的落ち着いているスリランカは、アジアの中で安心して旅行できる国として評価が高まっています。
バンコクやバリ島のような混雑を避けたい人にとって、スリランカは「静かな贅沢」を感じられる理想的な旅先です。
紅茶の香りが漂う丘の上、古都の祈りの声が響く夜、海辺に沈む夕日を見つめながら過ごすひととき。
それは観光ではなく、自分の中の静けさを取り戻す旅です。
アジアの次なるブームの中心に立つスリランカは、いま、もう一度「旅の意味」を思い出させてくれる場所になりつつあります。