台湾・ベトナム・スリランカに見る「飲むリトリート」の多様性
アジアの多くの国では、お茶が日常生活に深く根づいています。
中でも台湾、ベトナム、スリランカの3か国は、それぞれ異なる自然環境と文化のもとで独自の茶文化を育んできました。
お茶は単なる嗜好品ではなく、心と体を整える「リトリート(癒しの時間)」としても重視されています。
この記事では、3か国のお茶文化の特徴と、旅行者が現地で体験できるポイントをご紹介します。

台湾 香りを重視する高山茶文化
台湾では、標高の高い山地で育つ烏龍茶が有名です。
主な産地は南投県の凍頂、嘉義県の阿里山、台中の梨山などで、いずれも1,000メートルを超える高地にあります。
朝霧や昼夜の寒暖差によって香りが濃く、味にまろやかさが出ることが特徴です。
代表的な銘柄には凍頂烏龍茶、阿里山高山茶、文山包種茶などがあります。
台湾のお茶文化を体験するなら「茶藝館(ちゃげいかん)」の利用がおすすめです。
台北の永康街や迪化街には、観光客でも入りやすい茶藝館が多く、スタッフが丁寧に淹れ方を教えてくれます。
茶藝では、香りを“聞く”という表現を使い、味よりも香りや余韻を重視します。
茶壺や茶杯の扱い方にも作法があり、湯温や抽出時間によって香りの変化を楽しむのが台湾式です。
お土産として購入する場合は、真空パック入りの茶葉が人気です。
現地のスーパーでは、100gあたり300〜800元前後で販売されており、同等品質の茶葉を日本で購入するよりも割安です。
また、台中や嘉義では生産者が直接運営する茶園も多く、見学や試飲が可能な施設もあります。
香りを中心に楽しむ台湾の茶文化は、リラックス目的の旅行者にも向いています。

ベトナム 伝統の蓮茶と地域ごとの多様な茶文化
ベトナムでは、緑茶のほかに「蓮茶(Trà Sen)」という独特な香りのお茶が有名です。
蓮茶は、ハノイ近郊の西湖(タイホー)周辺で古くから作られており、蓮の花びらで緑茶を包み、香りを移すという手間のかかる製法が特徴です。
蓮の香りをまとったお茶は、古代には王族や高官のみに許された特別な飲み物でした。
現在でも高級茶として扱われており、上質な蓮茶は100gあたり300,000〜500,000ドン前後で販売されています。
現代のハノイでは、伝統的な蓮茶に加え、ジャスミンティーやハスの実を使ったハーブティーなど、バリエーションが増えています。
また、ホーチミン市など南部では、中国茶やタイ風ミルクティーの文化が混ざり合い、喫茶スタイルも多様です。
カフェ文化が発達しているベトナムでは、伝統茶をモダンなスタイルで提供するカフェも増えており、観光客にも人気があります。
「Trà Sen Tây Hồ」や「Lá Studio」などでは、伝統製法の蓮茶を現代的にアレンジして提供しており、テイクアウトも可能です。

お土産としては、真空パックされた蓮茶やティーバッグタイプが定番です。
価格帯は品質によって大きく異なりますが、一般的な旅行者向けのものなら、100gあたり10万〜20万ドン程度で購入できます。
香りが強い蓮茶は湿度の影響を受けやすいため、密閉容器で保存するのがおすすめです。
スリランカ セイロンティーが支える世界的紅茶産業
スリランカは世界有数の紅茶生産国であり、「セイロンティー」の名で広く知られています。
国の中央部にはキャンディ、ヌワラエリヤ、ウバなど複数の主要産地があり、それぞれの標高と気候によって風味が異なります。
高地で生産される紅茶は渋みが少なく香りが高い一方、低地で採れるものはコクが強く、ミルクティーに適しています。

スリランカ紅茶の特徴は、産地ごとの明確な個性と、品質管理の高さにあります。
政府が紅茶局を通じて品質基準を厳しく管理しており、輸出用茶葉の大部分は「Ceylon Tea」マーク付きで販売されています。
紅茶は国の主要輸出品であり、世界約140か国に出荷されています。
旅行者が現地で購入する場合は、キャンディ市やコロンボの専門店が定番で、ブランドとしては「Dilmah」「Mlesna」「Basilur」などが有名です。
100gあたり500〜1,000ルピー前後が一般的な価格帯です。
観光としては、ヌワラエリヤやキャンディの茶園見学が人気です。
「Pedro Tea Estate」や「Mackwoods Labookellie」などでは、製造工程を見学した後に試飲ができ、種類ごとの違いを学ぶことができます。
紅茶の淹れ方も地域によって異なり、スリランカではミルクや砂糖、スパイスを加えて飲むのが一般的です。
特にシナモンやカルダモン入りのマサラティーは、現地の人々に親しまれています。

アジアの茶文化が伝える癒しと持続性
台湾、ベトナム、スリランカの茶文化には、それぞれ異なる背景がありますが、共通しているのは「香りを楽しみ、心を整える」という点です。
台湾では香りの芸術として、ベトナムでは花と祈りの象徴として、スリランカでは自然と労働が生む恵みとして発展してきました。
また、これらの国では近年、観光と結びついた「茶の体験ツーリズム」が注目されています。
茶園の見学、茶藝体験、香りのワークショップなど、旅の中で学びと癒しを同時に得られるスタイルが広がっています。
お茶を通して土地の文化に触れることは、単なる観光以上の価値があります。
香り、味、そしてその背景にある人々の暮らしを理解することが、南国の旅をより豊かにしてくれるはずです。
台湾の高山の香り、ベトナムの蓮の香り、スリランカの紅茶の香り。
それぞれの国の茶文化は、訪れる人に穏やかな時間を与えてくれます。
一杯のお茶をゆっくり味わうことが、心を整える小さな旅になる――それが「飲むリトリート」という考え方なのです。
